日本初、国際ファッション専門職大学が仏・IFMとシンポジウムを開催ファッションの「サヴォアフェール(実践知)」を再定義

学校法人 日本教育財団のプレスリリース

ファッション・ビジネスの未来を担う人材育成を行う国際ファッション専門職大学(PIIF)は、2026年3月14日、世界最高峰のファッション教育機関であるフランス国立ファッション学院(Institut Français de la Mode、以下IFM)との共同開催による国際シンポジウム「Savoir-faire(実践知)の未来:日仏の対話から生まれる継承と創造」を東京キャンパス(総合校舎コクーンタワー)にて開催いたしました 。

■世界トップクラスの教育機関「IFM」との日本初となる共同シンポジウム

本シンポジウムは、PIIFにとって初の国際シンポジウムであると同時に、日本国内の大学として初めてIFMと共同開催を実現した画期的な取り組みです。IFMは、フランス政府やファッション業界が全面的にバックアップしており、パリ・ファッションウィークのオープニングで卒業制作のショーを行うなど、ファッション教育における世界的な権威として知られています。

■Savoir-faire(サヴォアフェール=実践知)とは?

フランス語の「savoire(知る)」と「faire(作る)」を掛け合わせて誕生した言葉で一般的には「匠の技」などと表現されます。重要なのは、「匠」という言葉に潜んでいる「長年の歴史」というニュアンス。「長年の歴史により培われた、職人技と独自の美意識、そして審美眼」くらい深い意味を持つ言葉です。

■日仏の共通価値:国際ファッション専門職大学 近藤誠一学長(元・文化庁長官)

冒頭、近藤誠一学長(元・文化庁長官)は、科学技術と文化芸術を最高レベルで両立する日仏両国が、人間性の象徴である「サヴォアフェール」を磨く意義を強調。テクノロジーを使いこなしつつ、人間が人間たる所以を示すこの知恵こそが「未来への回答」になると語りました。

■サヴォアフェールを「戦略的資産」へ(国際ファッション専門職大学 平野大准教授)

平野准教授は、日仏のファッション産業における「サヴォアフェール」を、単なる技術継承ではなく、未来を切り拓く戦略的資産として再定義する必要性を提示しました。日本の求道的な職人文化と、フランスの制度的・戦略的な継承モデルを比較し、後継者不足やデジタル化、生成AIといった共通課題に対し、両国の知見を接続する重要性を指摘。伝統技術を社会的価値と経済的価値の双方につなげるCSVの視点から、新たな価値創造の可能性を論じました。

■生成AIは「新しいクラフト」である(IFM 研究部ディレクター ベンジャミン・シムノーア氏)

IFMのベンジャミン・シムノーア教授は、クリエイティビティを「革新性・妥当性・個性」の三要素で定義し、デザインとクラフトの相互作用を論じました。創造性とは、単なる無からの産物ではなく、技術的制約の中で最適な判断を下し、その制約を再定義するプロセスであると指摘。バレンシアガが新素材の制約を逆手に取り、新たな造形を生んだ歴史を例に、「技術がアイデアを変え、アイデアが技術を進化させる」ことについて語りました。

さらに、生成AIを「人間の代替」ではなく、新たな制約を伴う「新しいクラフト(技法)」として定義。IFMでの学生の作品を例に、AIとの対話を通じて、これまでのカテゴリーに収まらないハイブリッドなデザインが生まれるプロセスを紹介しました。

■身体知と物語が交差する博物館の役割(エミリー・アマン氏 パリ市立モード美術館「パリ・ガリエラ」館長)

パリ市立モード美術館「パリ・ガリエラ」のエミリー・アマン氏は、サヴォアフェールを巡る研究史と、自身が関わる論文集およびパリ・ガリエラでの展覧会について発表しました。「服は完成品だけを見ても、その本当の価値はわからない。服が作られるまでの職人の手つき、工房の空気、作り手が協力する姿など、目に見えないプロセスこそが重要です」と語り、博物館の役割は、単に服を飾るだけでなく、そうした「職人のドラマ」を物語として伝える場所であるべきだと提案しました。

■470年の伝統を「更新」する(加藤結理子氏:千總文化研究所 所長)

京都の千總文化研究所の加藤結理子氏は、約470年にわたり染織を続けてきた千總の歴史をたどりながら、技術継承と創造性について発表しました。時代や社会の変化に応じて製品や技法を更新してきた千總の歩みを紹介するとともに、友禅や桶出し絞りなどの技術分析を通じ、手仕事・機械・デジタルそれぞれの特性と限界を検証。技術の価値は優劣ではなく「何を表現できるか」にあり、人にしか担えない創造性を再考する重要性を示しました。

■パネルディスカッション:日仏の「産地」と「職人」の現在地

後半のディスカッションでは、現場の課題と未来が語られました。エミリー・アマン氏は、フランスの職人環境がパリに一極集中し、LVMHやシャネルといったメゾンが工房を救済・保護してきた歴史を説明。対して平野准教授は、日本独自の「職人への尊敬の念」や人間国宝制度が、技術継承における強固な社会的インフラになり得ると指摘しました。また、名古屋・有松絞りのブランド「Suzusan」の井上彩花氏は、ドイツと有松の2拠点でデザインと生産を分けていることを、職人の技術とデザインの制約が互いに影響し合う「創造的プロセス」であると述べ、伝統を現代の需要へ繋ぐ実践例を共有しました。

■AIとサヴォアフェールの共生

「生成AIは創造性を奪うか」という問いに対し、ベンジャミン教授は「AIは単なるツールではなく、予測不能なアウトプットをもたらす『対話の相手』である」と定義。一方、千總文化研究所の加藤氏は、AIが生成したデザインには人間の「呼吸」がないため、手仕事で再現しようとすると、どこか不自然で、職人にとっても再現しづらいものになってしまうという、体で覚えた技術(身体性)の重要性を指摘しました。

しかし、両者は「AIにどのような『栄養(過去の知見や文脈)』を与えるか」が重要であるという点で一致。AIを思考の拡張として使いつつ、最終的な審美眼は人間が担うという、新しいものづくりのサイクルが示されました。

■継承される問い

最後に近藤学長は、「AIという存在と向き合うことで、かえって人間ならではの価値や、私たちが大切にすべき心の境界線がどこにあるのかが、よりはっきりと見えてきたように感じます」と、総括しました。

このシンポジウムは、次回、パリで開催予定です。

■国際ファッション専門職大学について

東京・大阪・名古屋・パリ(CREAPOLE、ESMOD)、ニューヨーク(LIM College)にキャンパスを構える国際ファッション専門職大学は、55年ぶりの国の大学教育改革により、日本で唯一のファッション・ビジネスの新大学制度として2019年4月に開学しました。「服の、先へ。」という理念のもと、服をつくるだけにとどまらず、その先にあるライフスタイル、サービス、カルチャー、コミュニケーションにまで、「クリエイション」と「ビジネス」で世界に変革をもたらす人を育てる大学です。全員が海外のファッション現場を経験する「海外実習・インターンシップ」をはじめ、世界のトップブランドとの連携、世界に誇る日本の繊維産地での実習など「今までにない学び」を実践できるのが特長です。卒業時には国際通用性のある学位として国が認めた専門職の「学士」を取得することができます。

https://www.piif.ac.jp/

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