~トレンド評論家・牛窪恵氏が解説。物価高騰と「消費ガチャ※1」回避が加速させる慎重消費の時代~
株式会社AOKIのプレスリリース
株式会社AOKI(代表取締役社長:青木彰宏)が運営する『ジャケジョ※2研究所』では、ジャケットに関する悩みやHOW TO情報を提供し、ジャケットを着用する女性をサポートする活動を行っています。
この度、11月29日の「いい服の日」(一般社団法人・日本記念日協会認定)に合わせ、“働く女性の服装”から時代の変化と動向を読み解く『#ジャケジョトレンド白書2025』を発表します。
本白書では、過去10年間で変化した服装への意識や現代女性の消費行動を分析し、働く女性のリアルな声から社会の価値観の変化を明らかにします。
さらに、トレンド評論家・牛窪恵氏による解説を交え、時代の変化と動向を多角的に読み解きます。
※1「消費ガチャ」=“使って初めて分かる”という消費行動固有の不確実性と、近年高まる“失敗したくない”という慎重消費マインドを生活者視点で端的に言語化した表現。牛窪氏による造語です。
※2「#ジャケジョ」=ジャケットを着用する女性
ジャケジョ研究所:https://www.aoki-style.com/feature/jacketjoshi/
【 『#ジャケジョトレンド白書2025』 TOPICS】
パート①:#ジャケジョ生態学 ― データで読み解く現代で働く女性のリアル
■過去10年間で変化した働く女性の服装への意識 ■ジャケットに関する最新の実態調査
パート②:#ジャケジョ界隈の衣服支出と消費動向
■2025年の衣服支出の現状と傾向 ■物価高で伸びる服の消費期限
パート③:トレンド評論家の牛窪 恵(うしくぼ めぐみ)氏による解説
■時代は“価格主義”から“価値至上主義”へ
■過去10年間で変化した働く女性の服装への意識
・約6割が「服の選び方や考え方が変わった」と回答。
「10年前と比べて、服の選び方や考え方は変わりましたか?」という質問に対し、61%が「変わった」と回答。多くの人がこの10年で服との付き合い方を見直していることがわかりました(グラフ1)。では、この10年で服を選ぶ上で最も重視していることはどのように変化したのでしょうか?
次の設問で比較していきます。

■『#ジャケジョトレンド白書2025』概要
・調査期間:2025年9月
・調査機関:調査委託先ノウンズ株式会社
・調査方法:インターネット調査
・有効回答数:1,001件
・調査対象:ジャケットを着用する機会のある20代~50代の女性
■パート①:ジャケジョ生態学 ― データで読み解く現代で働く女性のリアル
・10年前と現在では「服選びの価値観」が大きく変化。安さより“着まわしやすさ”“着心地”
を重視。
10年前に最も重視されていたのが「価格の安さ」(26.7%) 。現在は「着まわしのしやすさ」(22.0%) がトップに。また、「流行のデザイン」を重視する声は15.4%から7.1%へと半減し、代わりに「流行に左右されない定番のデザイン」が10.8%から14.6%と増加しています。
そして、「素材や着心地」が13.2%から19.9%へと増加 (グラフ2・3)。さらに、10年前には上位に入っていなかった「お手入れのしやすさ」(10.8%)が5位にランクインしました。これらの結果から、一時的なトレンドや価格を追うのではなく、一着を上手に着まわし、長く・快適に・心地よく着続けることを重視する“賢い消費”への意図が見て取れます(グラフ3) 。


・「服選びの価値観」の変化を示す上位3つのキーワードは、“着心地”“コスパ”“自分らしさ”
「服の選び方や考え方が変わった(n=611)」方に具体的な内容を尋ねると、「リラックスできる着心地」(44.2%)が1位となり、ストレスフルな現代において、あらゆるシーンでモチベーションを保つためにも着心地を重視していることがうかがえます。

また、「一着あたりのコスパと着まわし」(39.3%)、「流行より“自分らしさ”」(32.4%)を優先する声が2位と3位となり、4位には「質や長持ちを重視する」(24.9%)がきていることからも分かるように、コスパや自分らしさ、そして長く使えるかという、価格の安さや流行ではなく“長期的に納得できる選択”へとシフトしていることがうかがえます (グラフ4) 。
■ジャケットに関する実態調査
・ジャケットが必要とされる場面は“仕事”“フォーマルな場”。デザイン一番人気は“ノーカラー”。
「ジャケットが必要だと感じるのは「仕事で『きちんと感』が必要な時」(40.2%)、「フォーマルな場でドレスコードを意識する時」(33.4%)、「シンプルなコーディネートを引き締めたい時」(23.0%)が上位となりました(グラフ5)。
人気のタイプは着まわしやすい「ノーカラージャケット」(37.8%)や定番の「テーラードジャケット」(32.2%)でした (グラフ6)。


■パート②: “#ジャケジョ界隈”の衣服支出と消費動向
■ 2025年の衣服支出の現状と傾向
・洋服代は「月5,000円未満」が多数派。一方“ほとんど買わない”慎重消費派も。
2025年における1ヶ月あたりの洋服代は、
「5,000円未満」の層(44.1%)が多数派となりました。一方、「ほとんど購入していない」(20.2%)が約2割となり、消費に関して慎重になっている層が存在することがうかがえます(グラフ8)。

■物価高で伸びる服の消費期限
・物価高で意識変化。“厳選して買い、長く着る”が“服装選びの新常識”に。
物価高の影響による「服との付き合い方」の変化に着目しました。 具体的には「本当に欲しいものだけを厳選する」(35.1%)、「着まわしやすさを重視」(29.2%)する意識が高まっています。また3位には、「なるべく安いものを買うようになった」(29.1%)が、4位には「長く着られるベーシックなデザインを選ぶようになった」(28.8%)が入っています(グラフ9)。
さらに、「購入頻度が減った」(34.1%)人は3割を超え(グラフ10) 、「一着あたりの着用期間」を延ばしている人(41.7%)も4割以上に(グラフ11) 。賢く選び、長く大切に着るという持続的な消費スタイルへの転換が進んでおり、「服の消費期限が伸びている」と仮定できます。



■パート③:トレンド評論家の牛窪恵(うしくぼ めぐみ)氏による解説
本白書の締めくくりとして、トレンド評論家の牛窪恵氏に調査結果を読み解いていただきました。
物価高や働き方の多様化を背景に、働く女性の服装は「流行に合わせる」から「自分のライフスタイルに合った堅実な選択」へ変化しています。こうした動きは、社会全体の価値観や消費行動の変化を映し出しています。
牛窪氏の視点から浮かび上がる「服と社会の新しい関係性」とは何か。その深層を紐解くことで、
未来の衣服選びが私たちの働き方や暮らしにどう寄与していくのかが見えてきます。

トレンド評論家・マーケティングライター 牛窪 恵(うしくぼ めぐみ)氏
東京生まれ。立教大学大学院(MBA)修了。同大学院客員教授。大手出版社に入社後、フリーライターを経て、2001年4月、マーケティングを中心に行うインフィニティを設立。同代表取締役。トレンド、マーケティング関連の著書多数。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は、新語・流行語大賞に最終ノミネート。
【世代でこんなに違う。“働く服”の価値観】
– 働く女性にとって、ジャケットの役割や象徴性はどのように変化したと感じますか?
働く女性がジャケットを着用する意味や役割は、時代とともに大きく変化しています。背景には、「①景気経済の変化」「②社会における女性の役割の変化」「③“働く”という概念そのものの変化」この3つの要素が複雑に絡み合っていると分析しています。
“Z世代”・“ゆとり世代”は、 共働きが当たり前の環境で育ち、ライフの中にワークが自然に組み込まれているので双方で「動きやすさ」を非常に重視します。物欲は弱く、シェアリングエコノミーの意義やコスパを理解しているので、着心地の良さや着まわしのしやすさを好む傾向も強い。さらにリモートワークの定着によって「家でも仕事がしやすく、そのまま外出しても違和感のない」、生活と仕事を両立できる服装が重要になっていくでしょう。
40代前半の“ロスジェネ世代” は、年齢的に中間管理職として働く人が増える時期で、さらにお子さんがいると小中学生の年齢が多く、職場と私生活のどちらも多忙です。だからこそ、服装に“気持ちを切り替えるスイッチ”としての役割を求める傾向があります。ジャケットを着ることで自然と仕事モードに入るという感覚ですね。さらにこの10年で、ジャケット選び(素材、色、組み合わせ)に、自分の価値観や生き方を投影する意識も高まりました。
50代半ば前後の“バリキャリ世代”は、会社で要職に就く人も多く、素材感や“高見え”など、他者
からの見え方への意識が高い世代です。自分で稼いだお金で選ぶ喜びを大切にしながらも、節約志向は根強く、かつてのようにブランド品を次々と買い替えるケースは非常に稀です 。
世代を問わず共通しているのは、この10年で浸透したサステナビリティ意識です。衣料品ロス問題などへの関心が広がり、「たくさん持つ」よりも「ひとつを長く大切に着る」ことを重視する人が増えています。自宅で洗える、はやりすたりが少ない、手入れがしやすいなど、日常に寄り添いながら長く活躍する服を選ぶ傾向は、従来とは明らかに異なる点です。
【“価格主義”から“価値至上主義”へ。服は、心の余裕と生き方を映すものに。】
– この10年で、服を選ぶ基準が大きく変化しました。調査では「価格の安さ」
「流行のデザイン」が下がり、「着まわしのしやすさ」「素材や着心地」が上位に。
こうした実用性・快適性へのシフトをどのように捉えていますか?
ひとつは、リモートワークの普及で、“自分にとって心地が良いかどうか”を重視するようになった点です。たとえば、お子さんを抱っこした時にシワになりにくいか、肌寒い室内で羽織ってそのまま外に出られるかなど、着用シーンが多様化したことで、“着まわし”や“着心地”のニーズが顕著になっています。
一方で、「価格の安さ」や「流行」が重視されなくなったのは、“ひとつのものを長く着たい”・“量より質”への価値観の表れです。特に若い世代では、ファストファッションに対する罪悪感があって「安くてもすぐに着なくなる服を消費し、環境に負荷をかけたくない」という意識が根強くなっています。これは、「価格主義」から「価値至上主義」への移行と言えます。
流行に飛びつくと長く着られないため、上質でベーシックなものを数枚、質を落とさず揃え、自分の
“標準アイテム”として持っておきたいというニーズが高まっています。
着心地の良い服は、自分に余計な負荷をかけない、“自分の味方”のような意識が強く、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を維持するためにも、心の余裕をもたらす“快適さ”が求められているのだと思います。
【「消費ガチャ」回避と、“心のゆとり”志向が生む、慎重消費という新潮流】
– 調査では、物価上昇を背景に購入頻度を抑え、一着を長く着る傾向が見られました。
働く女性たちの“服の買い方”には、どのような変化を感じますか?
まず、物価高の影響以上に、“心のゆとり”を重視する意識が高まっていると感じます。着心地が良く、自分を肯定できるような服を選び、長く大切に着たいという気持ちが強くなっている。
一方で、特に若い世代には「親ガチャ」「配属ガチャ」などの言葉に象徴されるように“失敗したくない”という心理が顕著です。その延長線上で、私自身の造語ではありますが、「消費ガチャ」を避けたいという意識の広がりも感じています。気分で買って後悔するより、納得して長く使えるものを選ぶ。そんな慎重な買い方が定着しつつあります。
また、サステナビリティ意識の高まりやSNSの影響も大きいでしょう。販売員さんやインフルエンサーによる“着まわし提案”が普及し、“少ないアイテムを長く賢く活用すること”が新しいおしゃれの基準になっています。もちろん価格も大事ですが、今は“信頼できるかどうか”がより重視されるようになりました。
【「服装ストレス」は、社会の変化を映す鏡】
– 服装のストレス要因を考えると、個人の悩みというより、社会構造や文化と深く関わっているように見えます。服装ストレスから見る、社会的な価値観や潮流を教えてください。
まず気候変動です。気温差が激しくなったことで、何を着るかの判断が難しくなっています。ジャケットは体温調整に便利なアイテムですが、春と秋が短くなったことで活躍する期間が以前より短くなっています。そのため、より厚手の冬物や、逆に薄手の春物などが求められるようになり、気候に合わせた服装選びの難しさがストレスになっています。
次に、女性の社会的な立場の変化です。管理職や社外取締役など、立場によって求められる装いのパターンが増え、TPOの幅も広がりました。子育てとの両立、リモートと対面が混在する今、カジュアルとフォーマルの境目を探ること自体が心理的な負担になっています。
さらに、“マナーブーム”以降に根づいた「女性らしさ」や「所作」への過剰な意識も影響しているように感じます。自分らしさを大切にしたい一方で、周囲の目を気にせざるを得ないんです。そのジレンマが「服装ストレス」を生んでいるのだと考えています。
いま多くの人が求めているのは、単なる着心地ではなく、“自分の味方になってくれる服”。どんな場でも自分を支えてくれる安心感。それが現代における“快適さ”であり、心の余裕をつくる鍵になっているのだと感じます。
【AIでは得られない“専門的助言” や“偶然の出会い”が、店頭体験の価値を高める可能性】
– 10年前と現在の服装選びの結果を踏まえ、さらに10年後はどのような観点が変化すると考えられますか?
現代の女性が服装選びで抱えるジレンマは、働き方の多様化に起因しています。現在の女性は「節約」「必要数」「着心地の良さ」と「きちんとした見た目」の両立に加え、「服を増やしたくない」「環境負荷を減らしたい」という新たな価値観の中で葛藤しています。以前は価格重視で安いものを複数揃えることができましたが、現在は厳選したいという意識が高まっています。特に、コロナ禍を経て在宅と出社が混在し、働き方のメリハリが曖昧になりましたが、今後はさらに多様化が進みます。高齢者介護等による柔軟な勤務体系の必要性などから、企業はフレキシブルな働き方の選択肢導入が不可欠となるでしょう。このような「自分で働き方を選べる時代」が到来すると、服装もシーンに応じてメリハリをつけられるようになり、「あらゆる場面に対応できる一着」ではなく、「カジュアル寄り」「フォーマル」など目的に合わせた服を選ぶスタイルが主流になると予測されます。
そこで重要になってくるのが、専門的なアドバイスです。AIやデジタル技術によるコーディネート提案が普及する一方、デジタルが当たり前になればなるほど、むしろ「人と対面で会う」リアル店舗の価値が相対的に高まっています。顧客はリアルな売り場で、信頼できるスタッフによる「自分にぴったりの専門的なアドバイス」を強く求めており、アルゴリズムでは得られない「セレンディピティ(偶然の素敵な出会い)」を期待しています。
これからのアパレルブランドに求められるのは、“モノ”ではなく“体験”です。
たとえば、対面接客を通じて着こなしの提案だけでなく、メンテナンスの方法や長く着るための工夫まで一緒に考える。そうした体験重視の姿勢が、信頼や愛着を生む時代になっていくと思います。

