繊維・ファッションビジネス業界の専門紙「繊研新聞」      第55回「繊研合繊賞」・第11回「繊研天然繊維特別賞」授賞式を開催

   化合繊業界・天然繊維業界の発展を期待し、計16の素材、技術、商品、企画に賞を贈呈

株式会社繊研新聞社のプレスリリース

3月上旬に都内ホテルで贈呈式を開催、受賞各社の関係者約120人が来場した

 繊維・ファッションビジネスの専門紙「繊研新聞」の発行、ポータルサイト「繊研plus」の運営などを行う繊研新聞社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:佐々木幸二)は、2025年3月6日、東京都中央区日本橋蛎殻町のロイヤルパークホテルで、「第55回繊研合繊賞」「第11回繊研天然繊維特別賞」の贈呈式を開催しました。

 繊研合繊賞は、原糸技術や高次加工技術、マーケティング活動などを含め、日本の化合繊業界の発展を後押しすることを目的に1970年に創設しました。天然繊維分野の功績も評価するため、2014年には繊研天然繊維特別賞も創設しました。審査・選考は年に一度、外部専門家の技術評価、テキスタイルコンバーターへのアンケート、アパレルを担当する記者への聞き取りなどを踏まえ、全国の素材、テキスタイル、商社担当の記者が行っています。選考基準は「斬新さ」「話題性」「実績」の3点。2024年度は、2024年12月6日に繊研新聞社・大阪支社にて選考会を実施。繊研合繊賞は、化合繊メーカー・染色加工などのテキスタイル企業からエントリーいただいた自薦16素材に、6つの記者推薦を加えた計22点の候補から、天然繊維特別賞も同様に自薦・記者推薦8点の候補から審査・選考し、最終的に16点が受賞の運びとなりました。

●受賞各賞の紹介

■繊研合繊賞

《グランプリ》

100%バイオマスナイロン「エコディアN510」の量産と販売=東レ、吉田

素材の価値をともに伝えた「エコディアN510」と「ポーター」の「タンカー」

 東レが開発した100%植物由来ナイロン「エコディアN510」を、糸の量産技術確立から市場開拓まで吉田との協業で実現しました。N510は100%植物由来のナイロンで、東レが2022年に原糸およびテキスタイルを開発しました。量産・本格採用は吉田のバッグブランド「ポーター」が初めてです。ポーターの人気シリーズ「タンカー」が40周年で全面リニューアルするのに合わせて、サステイナブル素材のN510に着目。両社で量産に向けた検討を進めました。N510はポリマーの特性で糸切れや毛羽が発生しやすく、紡糸に苦戦しました。ポリマー改質や東レ愛知工場による紡糸技術でこれを克服し、安定生産する技術を確立しました。販売に際しては、ポーター直営店などに限定。タンカーに採用したN510の特徴や量産を実現した東レとの物作りのストーリーを動画や展示で表現し、価格が旧シリーズの倍以上になったにも関わらず、異例のヒットとなりました。こうした川上から川下をまたぐ共創のストーリーを評価し、グランプリに選びました。

《マテリアル部門》

シルック発売60周年記念素材「シルック美來(ミライ)」の開発=東レ

シルキーポリエステル素材の集大成「シルック美來」

 東レのシルック美來は、シルキー調ポリエステル素材の草分けである「シルキー」の60周年を記念して開発。複合紡糸技術「ナノデザインを活用し、1つの糸束に2種類の花びら上の異形断面を掲載することで絹のような上品な光沢と、絹と同等の摩擦特性が出せ、和装の襟の着崩れも防ぎます。また、加工糸によるバリエーションで洋装向けの展開も期待できます。シルキー素材としての完成度の高さを評価しました。

《テクニカル部門》

熱可塑性炭素繊維複合糸「CfCヤーン」の開発=東洋紡せんい

複合紡糸技術を駆使して開発した「CfCヤーン」

 東洋紡せんいのCfCヤーンは、複合紡績技術を生かし、糸段階で樹脂である合繊と炭素繊維を3層に組み合わせた炭素繊維複合材原料。織物のほか、無縫製編み機「ホールガーメント」を使った立体構造も可能で、これを加熱成形すると、従来作れなかった複雑な形状の炭素繊維材料を作ることができます。紡績技術の非衣料分野への応用が注目されています。

速乾性とドライ感に優れた繊維「エプシロン」の開発=クラレトレーディング

疎水性に優れ染色も可能な「エプシロン」

 クラレトレーディングのエプシロンは、出光興産が製造するシンジオタクチックポリスチレン樹脂をクラレの溶融紡糸技術で繊維化。ポリマー自体の高い疎水性を生かし、吸水速乾昨日を発揮。またPFAS(有機フッ素化合物)フリーの撥水素材としても注目されます。

高通気素材「アミド」の開発と販売=一村産業、丸井織物

共同特許技術の穴あき構造「アミド」

 一村産業と丸井織物のアミドは、高い通気性と強度を併せ持つ織物。繊維間の空隙をモノフィラメントで固定することにより、穴あき構造でありながら強度も維持することに成功。共同特許も取得しています。

A型中空断面ナイロン「トラセア」の開発=東レ

高い中空率を保ち、軽量感を両立する「トラセア」

 東レのトラセアは、トラス構造と言われる変形A型断面をした中空ナイロンを使ったテキスタイル。外側に突き出た突起により、繊維内外に高い中空ができ、強固なトラス構造が中空を保持。製品の軽量化につながり、カジュアルアウターなどに採用。ナイロンの直接紡糸で特殊異形を実現した高度な紡糸技術を評価しました。

《サステイナブル部門》

ポリエステルの脱色・アップサイクル技術「ネオクロマト加工」の開発と展開

         =日華化学、エレファンテック、ミマキエンジニアリング

 水使わない脱色で繰り返し使える「ネオクロマト加工」

 ネオクロマト加工は、染色されたポリエステルの生地・製品に特殊薬剤を浸透させ、吸い取り紙の役目をする紙を挟んでヒートプレイスするときれいに色が抜ける技術。脱色後、染直しも可能で、使い捨てされるイベントのバナー、のぼり旗や、繊維産業で課題となっている製品ロスのアップサイクルにもつながる技術。日華化学、エレファンテックが開発した要素技術を使い、ミマキエンジニアリングが2025年に機械の販売を目指しており、「池袋ロフト」などで実証もスタート。繊維の資源循環につながる新技術として評価しました。

《ニューフロンティア部門》

炭素繊維強化熱可塑性樹脂積層板「テナックスTPCL」の開発=帝人

短時間成形できるプリプレグ

 帝人の炭素繊維複合材「テナックスTPCL」は、炭素繊維に熱可塑性樹脂を含侵させたシートを積層したもの。成形時は、「樹脂が柔らかくなるまで加熱」「加熱と同時に加圧成形する」「加圧しつつ温度を下げていく」という3つの工程をプレス機で一貫で行い、成形時間短縮によって大幅なコスト低減を実現。モバイルディスプレイなど身近な製品で採用され、用途拡大の可能性が広がっている点を評価しました。

リカバリーウェア市場を作り、育ててきた取り組み=ベネクス

累計販売200万着を超す「ベネクス」のリカバリーウェア

 ベネクスは血行促進によって疲労回復につながるリカバリーウェアを市場に浸透させた草分け的存在。名のプラチナなどの鉱物を含む独自素材を練り込んだ「PHT繊維」を使い、そこから放出される遠赤外線によって血行促進効果がある。一般医療機器の「家庭用遠赤外線血行促進用衣」も届け出済み。リカバリーウェアという新市場を創出し、累計200万着を超す販売実績を評価しました。

《ヒット賞》

高機能快適ポリエステル素材「爽多」=帝人フロンティア すだれヒントに高い通気性

すだれヒントに高い通気性

 帝人フロンティアの「爽多」は、すだれから着想したスリット状の高通期部分を持つ特殊な織物構造により、通気性と紫外線遮蔽性、肌ドライ性などを持つ。2025年春夏向けの本格販売を計画していましたが、大手SPAなどから強い引き合いがあり、前倒しの2024年度で140万メートルの実績に。猛暑が際立った2024年の市場にはまった素材として評価しました。

「SY加工」20年の展開と拡大=小松マテーレ 天日干し風、需要増で設備拡大

2022年以降は販売好調で設備も拡大した「SY加工」

 小松マテーレの「SY加工」は「ビンテージ繊意」のブランドで2002年にスタートし、天日干しのようなナチュラルな風合いや膨らみ感が特徴の素材。コロナ禍で一時落ち込んだものの、2022年以降は過去最高を更新する販売を記録し、2024年に13億円を投じた設備増強も実施。社内の通称であるSY加工が業界内にも浸透し、ロングヒットを続けている実績を評価。

高ストレッチ素材「テックスブリッド」の販売=蝶理

高機能と使いやすさでヒット

 蝶理の「テックスブリッド」はポリエステル高伸縮糸。製品OEMでブランディングを進め、アパレル企業に浸透。合繊セットアップや、ファッション、スポーツなど幅広い用途、価格帯で採用され、2019年度に8万枚だった製品販売は、2024年度に42万枚と大きく伸ばした実績を評価しました。

《特別賞》

廃漁網リサイクルナイロンの展開と能登地震被災漁業者支援の取り組み

                    =エランゲ、パタゴニア日本支社、豊田通商

日本の廃棄漁網を資源に変えるエランゲ、パタゴニア日本支社、豊田通商の取り組み

 エランゲは国内で廃棄される漁網を資源に変えたいと2022年にゼロからリサイクル事業に挑戦。廃漁網リサイクルを行う米国のブレオ社とのパートナーシップ契約が実現し、米州以外では初となる日本で回収された漁網が2025年からリサイクル原料として出荷される予定。エランゲとブレオをつないだのが、ブレオに出資する豊田通商と、ブレオの再生ナイロンを採用するパタゴニア日本支社でした。また、能登半島地震に際しては、パタゴニア日本支社の寄付金プログラムによるサポートを受け、金沢港に廃漁網リサイクルの前工程を行う作業場を開設し、被災して漁に出られない輪島の漁師たちに雇用の場を提供しました。

■天然繊維特別賞

英式紡績機を活用した素材開発=タキヒヨー

希少な英式紡績×日本国内の様々な産地の強み・魅力で独自性と室の高い素材を生み出す

 タキヒヨーの英式紡績機は、素材の知見を深める目的で約20年前に購入し、現在は一宮工場で稼働しています。主流の仏式と比べ、低速で工程も多いですが、空気を含んだ温かみのある糸が特徴です。手間と時間をかけ、差別化された素材が大手アパレルなどに採用され、かいがいからも 評価されているてんが本賞に値すると考えました。

ダウン製品の可能性を追求する30年の進化と研究=ナンガ 祖業のこだわり、進化続ける

日本を代表するダウンウェアブランドとして海外販路も広げている

 ナンガは寝袋やダウン製品を製造するメーカーで、近年は有力ブランドとのコラボや直営展開で話題のブランドです。1941年に布団製造でスタートし、製品やビジネスモデルを変化させて現在に至ります。独自の研究機関「ナンガマウンテンラボラトリー」では、社内外の知見を集めて製品展開に生かし、極寒にも耐える最高峰の寝袋や、ダウンの暖かさを可視化するビジュアルなどを開発しています。ブランド30年の歩みや進化を評価しました。

ミノムシ繊維「ミノロン」の事業化とブランド展開=興和

ミノムシ繊維を事業化し、ブランドとして展開を始めた

 興和は2024年にミノムシ繊維を「ミノロン」としてブランド化し、製品への採用も始まっています。興和は農研機構との共同研究でミノムシの繊維がクモ糸を上回る破断強度やタフネスを持つことを発見しました。これを事業化するのにあたり、人工飼料を使った屋内飼育の方法を開発。これによってまとまった量のミノムシ繊維を得ることに成功しました。ミノムシ自身が作るシートを炭素繊維と複合したり、短繊維をプラスチックと複合するなど、用途の広がりが期待できる新たな天然繊維です。古くから身近にある天然繊維に着目し、事業化した点を評価しました。

●繊研合繊賞・繊研天然繊維特別賞 選考委員会 委員長講評

繊研新聞社編集局 本社編集部記者 中村 恵生

                             

 今年は全国的に記録的な猛暑に見舞われたこともあり、暑熱対策素材が多くノミネートされました。気候変動対策の重要性とともに、人々の暮らしを快適にする繊維の可能性を改めて実感しました。今回、繊研合繊賞グランプリを受賞した東レと吉田の取り組みは、いまだ低価格志向の強い市場に対して一石を投じるものでした。今、日本経済は「失われた30年」とも言われた停滞・デフレの次期からの転換のさ中にあります。繊維産業においても原燃料の高騰、テキスタイル産地における人手不足など様々な困難に直面し、いかに価格と価値を上げていくかが課題になっています。原糸メーカーやテキスタイル企業の自助努力に加え、川下との協業、そしてその価値やストーリーを共に消費者に伝えていくという共創事例に学ぶべき点は多いと考えます。日本の繊維産業は規模では中国などと大きな差が開いていますが、小売りとの協業で新たな価値を生み出し、これを消費者に伝えていくことは、今後目指すべき方向を示していると感じました。日本の繊維産業の強みを伸ばし、サプライチェーンをいかに維持・強化していくか、大きな課題が引き続き残されていますが、この繊研合繊賞、繊研天然繊維特別賞が日本の繊維産業の未来を切り開く一助になれば幸いです。

《繊研新聞社について》

1948年創業、2023年7月20日に75周年を迎えました。「繊維・ファッションビジネス産業の発展と、人々の豊かな暮らしと健全で持続可能な社会の実現に貢献する」を経営理念に掲げ、ファッションビジネス情報を提供する「繊研新聞」(日刊紙および電子版)の発行を中核に、「繊維・ファッションビジネスの総合情報企業」として展示会や人材教育、セミナー、出版など多彩な事業を展開しています。

会社名 :株式会社繊研新聞社

所在地 :東京都中央区日本橋箱崎町31-4 ONEST箱崎ビル

代表者 :代表取締役社長 佐々木 幸二

事業所 :【本社】東京【支社】大阪、名古屋

URL:https://senken.co.jp/p/corporate

《本リリースに関するお問い合わせ先 》

 繊研新聞社 繊研合繊賞・繊研天然繊維特別賞 事務局

 担当者:目春靖雄、友森克樹

 電話 :06-7639-0570

 メール:gosen-award@senken.co.jp

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