主要アパレルの2021年4~12月決算は「値引き抑制で利益改善」効果が顕著に

FULL KAITENのプレスリリース

在庫の効率を上げる在庫分析クラウドサービス(SaaS)『FULL KAITEN』を開発し小売企業等に提供するフルカイテン株式会社は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大から1年9ヵ月が経過した2021年4~12月における大手上場アパレル企業7社の決算を調べ、各社の在庫効率(在庫単位あたりの粗利益を増やす力)がどう変化しているか等を考察するレポートを作成しました。レポート全文を公開します。
PDFファイル版は下記リンクからダウンロードできます。https://full-kaiten.com/news/report/4571

要点は次の通りです。

  1. 売上高は全16社のうち11社が前年を上回った。営業損益は8社が増益、1社が黒字転換した
  2. 少ない在庫で多くの粗利益を稼ぐ力の指標であるGMROIは15社が前年より改善した。コロナ禍前の2019年を超えた会社も8社あった
  3. 仕入れを抑制して在庫高も減らすと粗利益率、営業損益ともに改善するという関係が成り立つ
  4. 利益を出すには仕入れ原価の低減よりも、在庫をコントロールし値引きを抑制する方が効果的。在庫効率を上げる取り組みが急務

  • 全7社のうち4社が増収、6社で営業損益が改善

本稿の調査対象は3月期・9月期決算の主要アパレル企業7社の2021年4~12月における決算である。決算短信を基に売上高、営業損益、当期純損益をまとめたのが表1だ。

売上高は全7社のうち4社が前年同期を上回った。各社とも2021年度の前半は緊急事態宣言の発出の影響で売上が伸び悩んでいた。10月に同宣言が解除されて以降も、値引き販売を抑制して無理な売上を追わなかった会社もあることが窺える(詳細は後述)。

営業損益と当期純損益をみると、6社が前年から改善している。具体的には次の通りだ(表2)。

 ・前年も黒字だったワークマンは12.2%の増益
 ・前年に赤字だったワールド、ユナイテッドアローズの2社は黒字に転換
 ・前年に赤字だった青山商事、AOKIホールディングス、コナカの3社は赤字幅が縮小

一方、はるやまホールディングスは唯一、赤字幅が前年よりも拡大した。営業赤字の4社は、固定費を賄うだけの粗利益を稼ぐ力の再構築が急がれる。
 

  • GMROIは全7社が前年超えるもコロナ前の水準はあと一歩

GMROIの2019年、20年、21年の推移を示したのが次頁のグラフだ(2019年を1とした指数)。

 ※GMROI:小売業などの在庫ビジネスにおいて、保有する在庫を用いて効率的に粗利益(売上総利益)を上げる力を表す指標。(粗利益額) ÷ (期中平均在庫高)で求められる

全7社が前年同期よりも改善している。

このうちコナカは2021年が1.14となり、コロナ前の2019年を14%上回った。ワークマン、AOKIホールディングス、ユナイテッドアローズはそれぞれ0.95、0.944、0.939で、コロナ前の水準に近づいているとは言えそうだ。
売上をつくるため仕入れ先行で売る力以上の在庫を用意するのではなく、適量の在庫の効率を上げることで利益を上げていく手法への転換が浸透し、新たな常識になりつつあると本稿はみている。
 

  • 在庫コントロールが利益を大きく左右

表3は各社の仕入れ増減率と12月末の在庫高増減率、粗利益率とその昨対比をまとめたものだ。

期中仕入れ額はワークマンを除く6社が前年同期より減少あるいは微増であり、四半期末(12月末)の在庫高は全社が前年同期を下回っている。その中で粗利益率はワークマン以外の6社が前年より改善した。

通常、期末(四半期末)在庫高と粗利益率は次のような関係になる。
 1. 値引き販売を増やし、在庫消化を進める → 在庫高は減り、粗利率は下がる
 2. 値引き販売を控え、在庫消化を急がない → 在庫高は増え、粗利率は上がる
 3. 値引き販売を控え、定価での在庫消化に務める → 在庫高は減り、粗利率は上がる

今回は➂に該当するとみるのが妥当だ。つまり、各社とも仕入れを抑制するとともに値引きを抑制しつつプロパー消化に務めたことが図らずも証明されたといえるだろう。
 

  • まとめ:粗利を増やすには原価低減よりも在庫効率

ただし、留意点が1つある。在庫の削減によるGMROIや粗利益率の改善は、短期的には手もと現金(キャッシュ)が増えるという利点につながる。しかし、販売力(商品を売る力)が変わらない状態で単に在庫を減らすだけでは、売上高や粗利益額の減少を招き、固定費を賄いきれずに営業赤字に陥る。

実際、コナカは7社の中で唯一2021年のGMROIがコロナ前の水準を上回ったが、営業赤字額は売上高の14%にも上る。
このため、仕入れ抑制による粗利益の増加はあくまで一時的な成果だと捉え、継続的に在庫効率を向上させることで粗利益を稼ぐ力をつけることが重要になる。なぜなら、仕入れ抑制および在庫削減によってもたらされた結果を基準にして新たな目標設定がなされると、粗利を稼ぐ力が向上していない企業では、またぞろ在庫の物量や売り場の増加で目標を達成しようとする手法に回帰してしまう恐れがあるためだ。

そうなると、在庫効率の向上に向けた取り組みは元の木阿弥になり、2年後、3年後の業績悪化につながる。
アパレル産業では従来、前年踏襲で売上を確保するために仕入れありきで実際に売れる以上の発注を行い、計画通りに売れなければ値下げして残在庫の発生を回避するという手法が主流となってきた。そして、値下げが増えても利益が出るよう、製品原価を下げることが経営の主眼となってきたが、原価低減は商品の同質化という弊害が出るほどまで既になされている。このため、仕入れ原価率を数ポイント下げられたとしても利益感度は低い。

前章で振れたように、値下げや在庫コントロールの巧拙が粗利益に与える悪影響は大きい。仕入れ原価を数ポイント下げることよりも、何十%もの値引きを抑える方が利益感度が高いことは自明だ。
そして経営環境の先行きは不確実性を増している。本稿の分析対象期の後に続く2022年1~3月期は、新型コロナウイルス・オミクロン型の大流行の影響で厳しい決算が予想される。ユナイテッドアローズは2022年3月期通期の業績予想を下方修正した。2021年4~12月期に稼いだ営業利益の3分の1を、当期純利益に至っては大半を相殺してしまう赤字となる計算になる。

不確実性が増し、需給変動のボラティリティが大きい時代を迎えている。そうした環境下だからこそ、外部要因に左右されず自社の努力でできることに取り組むことが肝要になるが、「在庫効率」を上げることは正に自助努力でできることの典型例だ。

在庫効率の向上を通して手もと在庫を使って今よりも売上・粗利益・キャッシュフローを増やすビジネスモデルへの変革が求められているといえる。

※本レポートのPDF版は下記リンクからダウンロードできます(無料)。
https://full-kaiten.com/news/report/4571

※本調査は、対象となった企業の経営成績や財政状態の優劣を評価するものではありません。

【本レポートの引用について】
本レポートの内容は自由に引用していただけますが、その際は下記へご連絡ください。
フルカイテン株式会社
戦略広報チーム 南昇平
電話: 06-6131-9388
Eメール: info@full-kaiten.com

【会社概要】
社名: フルカイテン株式会社
URL: https://full-kaiten.com
事業内容: 在庫効率を上げる在庫分析クラウドサービスの開発
本社: 大阪市福島区福島1-4-4 セントラル70 2階B
設立: 2012年5月7日
代表者: 代表取締役 瀬川直寛

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